「いとおしい」に関する小考


震災以来、どっしりと、いつもそこにある不動産の安定感がいとおしい。建設、開発の言葉にも久々の出番が回ってきた。「動かざるもの」への憧れは、移ろう現実の裏返しでもあろう。世の中、「ふらふら」が多すぎる。

これは今日4日の朝日新聞のコラム「天声人語」にあった文であるが、文中にある「いとおしい」という言葉について、わかりにくいと同僚に言われた。

「いとおしい」を小学館の「日中辞書」で調べてみた。
1.《かわいそうだ》可怜。
[例]親に死なれた幼い子供がいとおしい。/死了父母的幼儿真可怜。
2.《かわいらしい》可爱
[例]いとおしい子供たち/可爱的孩子们。

大辞林によれば、
1.大事にして、かわいがりたくなるさま。たまらなくかわいい。
2.かわいそうだ。気の毒だ。
3.困ったことである。

広辞苑によれば、
1.見ていられないほどかわいそうだ。気の毒である。
2.困ったことである。われながらみっともない。
3.かわいい。可憐である。

以上だが、天声人語の「震災以来、いつもそこにある不動産の安定感がいとおしい。」は、「かわいそう」でもないし「かわいい」でもない。<「不動産の安定感がいとおしい」という感情>は、明らかに<「『動かざるもの』への憧れ」という感情>とイコールである。

近頃いろいろな文章で、この「いとおしい」を見ると、どれも、辞書とは異なる意味で使っていることが多い。即ち、憧れに似た感情。或いは、とても欲しい思う感情。時には、なつかしく大切に思う感情である。

もちろん、辞書通りの意味のものもある。「わが子をいとおしく思う」などだ。だが、それはかわいいと言う意味だけではない。「かわいく大切に思う気持ち」だ。どちらかというと、「大切に思う」気持ちが重要な使い方が多い。そこから、懐かしく大切に思う。或いは憧れに似た感情として、大切に思う気持ちが表されているように思う。

例えば、「故郷の自然をいとおしいと思う」「遠く離れた恋人をいとおしく思う」等だ。ここには「かわいそう」も「かわいい」もない。もし日本語学習者が電子辞書にある「日中辞書」だけで日本語を解釈しようとすると、まったく誤解してしまうことが多いだろう。

日本を代表する辞典「広辞苑」「大辞林」そして、中国人学習者のための小学館「日中辞典」はそろそろ改訂の時期ではないか。

そう思っていたが、最後に新明解辞典を調べてみると、これには驚かされた。
いとおしい④(形)かけがえのない存在として、そのものを大切に思う様子だ。

確かにそのとおりだ。そうなのだ。「かわいそうだ」も「かわいい」もない。大切に思う様子なのだ。納得した。

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