詩人のなり損ない!


 ぼくは子どもの頃から何をやってもだめな男だった。それでも、勉強だけは人並みに努力を続けていた。何もかもだめなぼくが、高校三年生の春、学校で詩を習ってから、ようやく、詩人になりたいという夢を見付けた。

 夏休みになって、ぼくは大学に入るための予備校に通うため、東京に一ヶ月間下宿することになった。夏休みに入って数日後、ぼくは東京の池袋駅を降りてバスに乗った。隣の座席に小柄で少し汚れた服を着た20歳前後の若者がいた。何か不思議な縁を感じた。彼は同じバス停で降りた。そして、ぼくの前を歩いて行き、ぼくが暮らす予定のアパートに入ったのだ。

 ぼくにとって、東京の予備校はまったく理解できないものだった。一日目、予備校の授業には幻滅した。ぼくは劣等生ではなかった。田舎では、それなりに優等生だった。国立大学合格確率も高かった。だが、予備校の先生の授業はまったくといっていいほど理解できなかった。そして、帰宅後、あの奇妙な青年といろいろと話すようになった。

 彼は、21歳、深夜、警備員のアルバイトをしながら、早稲田大学に入るための勉強を続けていた。詩集を出したと言って、ぼくに見せてくれた。素敵な詩集だった。フランスの詩人ランボーのことや日本の詩人のことをいろいろ教えてくれた。それだけではない。悪いことも教わった。ぼくは彼に傾倒した。そんな彼がぼくに言ったことばがある。

 「詩人になりたいって?そのために大学に入るって?冗談じゃない。詩人は勉強してなれるものじゃない。」

 これが今も忘れられないことばなのだ。

 夏休み明けのぼくは最悪だった。成績も国立大学合格確率も一気に下がった。学校の勉強なんかどうでもよくなったのだ。そこに、あの東京で出会った彼の影響があったことは間違いない。だけど、ぼくは彼と会ったことを不運だったとは思っていない。むしろ幸運だったと今も思っている。

wildsum について

I am a Japanese language teacher. I like to soccer and cooking,walking.
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